「タリスカーの香りがする日」まで

― 1000記事に寄せて ―

私が七歳のとき、両親は離婚した。
原因は、父の不倫だった。

私は父と暮らすことになった。
そして家には、新しい母がいた。

けれど子どもだった私には、
その人を「お母さん」と呼ぶことがどうしてもできなかった。

父と新しい母、そして私。
三人の生活は、どこかぎこちない空気が流れていた。

子どもながらに、
自分の居場所がどこにあるのか分からなくなることもあった。

学校では問題を起こすことも増え、
小さな非行に手を染めるようになった。

今思えば、
行き場のない気持ちを
どこかにぶつけていたのかもしれない。

そんな生活の中で、父が倒れる。
脳腫瘍だった。

そして九歳のとき、父は亡くなった。

その後、親戚の家を転々とし、
やがて私は養護施設に入ることになった。

昭和の養護施設は、決してやさしい場所ではなかった。

家庭環境の壊れた子どもたちや、
行き場を失った少年たちが集まっていた。

ときには荒れた出来事もあり、
子どもたちはそれぞれの形で日々を過ごしていた。

そんな環境の中で、私は孤独だった。

精神的にも追い詰められ、
現実から逃げるような空想に沈んでしまうこともあった。

そんな頃、よく読んでいたのが
「生きるとは何か」を問いかける哲学の本だった。

やがて高校を卒業し、
施設を出て社会に出た。

それから長い時間が過ぎた。

今、静かな夜にグラスを傾ける。

潮の香りを含んだスコッチの香りが立ち上る。

それは タリスカー。

遠い過去も、
ここまで歩いてきた人生も、
その香りの中で静かにつながっていく。



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