琥珀色の潮風に吹かれて

― 45年の節目、新しい自分への一杯 ―

社会に出てしばらくした頃、

仙台を訪れる機会があった。

場所は、たしか青葉通り。

青葉が濃く茂る季節で、

街路樹のケヤキが風に揺れていた。

夕方の光が通りに落ち、
街全体がどこか柔らかな色に包まれていた。

そのとき、
一軒の店の前で足が止まった。

入り口の近くに、女性が立っていた。

店の灯りと、青葉通りの夕暮れの光が重なり、
なんとなく雰囲気のある景色に見えた。

「少し飲んでいこうか。」

そんな軽い気持ちで、
私はその店の扉を開けた。

カウンターに座ると、
バーテンダーが静かに尋ねた。

「何にしますか。」

棚には、見慣れない酒のボトルが並んでいた。

その中で一つ、
名前が目に止まった。

Talisker(タリスカー)

そのウイスキーを頼んだ。

グラスに注がれた琥珀色の酒を口に含むと、
それまで飲んだ酒とは違う香りが広がった。

潮の匂い。
少し荒々しいスモーキーさ。
そして、体の奥にゆっくり広がる温かさ。

まるで、
遠くの海風を運んできたような香りだった。

その瞬間、
心の奥に沈んでいた何かが
少しだけほどけた気がした。

養護施設で過ごした日々。
孤独だった時間。
そこから始まった人生。

すべてが遠くにありながら、
今ここで静かにつながっている。

それ以来、
タリスカーは私にとって特別な酒になった。

静かな夜にグラスを傾けると、
あのときの青葉通りの風景がよみがえる。

ケヤキの葉が揺れる音。
夕暮れの空気。
そして、最初の一杯。

タリスカーの香りがする日。

それは、
私の人生が少しだけ前に進み始めた日
なのかもしれない。

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